自閉症児の癇癪に悩む保護者は少なくありません。急に泣き出す。床に寝転ぶ。大声を出す。物を投げる。予定変更で激しく怒る。お店や園や家庭で崩れてしまう。周囲から見ると、「わがまま」「甘やかし」「しつけの問題」と見られてしまうこともあります。
しかし、自閉症児の癇癪を、単なるわがままと考えるのは危険です。もちろん、子どもですから、欲しいものが手に入らなくて怒ることもあります。自分の思い通りにしたくて泣くこともあります。しかし、自閉症児の場合、その背景には、伝えられなさ、見通しの弱さ、感覚過敏、切り替えの難しさ、疲労、不安、環境のわかりにくさが重なっていることが多いのです。
癇癪が起きた瞬間だけを見ると、「困った行動」に見えます。しかし、その前に何があったのかをたどると、子どもがなぜ限界に達したのかが見えてくることがあります。療育で大切なのは、癇癪を力で止めることではありません。癇癪が起きにくい条件を作り、癇癪以外の方法で困りごとを伝えられるようにすることです。
癇癪の前に何があったかを見る
癇癪が起きると、大人はどうしてもその行動そのものに注目します。泣いている、大声を出している、暴れている、物を投げている。そこで「やめなさい」「静かにしなさい」と言いたくなります。しかし、療育的に見るなら、まず癇癪の前に何があったのかを確認する必要があります。
たとえば、好きな動画を終える場面で毎回泣くなら、切り替えの困難と見通しの不足が関係しているかもしれません。外出前に崩れるなら、どこへ行くのかわからない不安、服や靴の感覚、移動の負担があるかもしれません。園から帰宅後に大きく崩れるなら、園で頑張ってきた疲労や感覚負荷が家で噴き出しているのかもしれません。
また、癇癪の直前には小さなサインがあることもあります。動きが止まる、声が増える、同じことを繰り返す、顔つきが変わる、耳をふさぐ、物にしがみつく、大人の手を引く、逃げようとする。こうしたサインを見つけられると、崩れる前に支援を入れやすくなります。
癇癪は突然起きているように見えても、実際には負荷が少しずつ積み重なっていることがあります。起きた後だけでなく、起きる前を見ることが重要です。
伝えられないことが癇癪になる
自閉症児の癇癪の背景には、コミュニケーションの困難があることが多いです。嫌だ、やめて、休みたい、手伝って、もう一回、わからない、うるさい、痛い。こうしたことをうまく伝えられないと、子どもは泣く、叫ぶ、逃げる、叩くという形で表すしかなくなることがあります。
特に、言葉がまだ出ていない子、単語は出るが気持ちや困りごとを伝えにくい子、緊張すると言葉が出なくなる子では、癇癪がコミュニケーションの代わりになっている場合があります。
たとえば、課題が難しくてできないときに「手伝って」と言えなければ、泣くか逃げるしかありません。音がうるさくてつらいときに「うるさい」「休みたい」と言えなければ、耳をふさいで怒るか、その場から走って逃げるしかありません。動画をもう一回見たいときに「もう一回」と伝えられなければ、泣いて訴えることになります。
癇癪を減らすには、子どもが癇癪を使わなくても済む伝え方を教える必要があります。音声で言えない場合は、カード、身振り、指さし、選択肢でも構いません。まずは、本人の意思が安全に伝わる手段を作ることが大切です。
見通しのなさが不安を強める
自閉症児は、次に何が起こるかわからない状態が苦手なことがあります。今の活動がいつ終わるのか、次にどこへ行くのか、好きな活動はまたできるのか、苦手な活動はどれくらい続くのか。こうしたことが見えないと、不安が高まりやすくなります。
大人は、「あとで」「もう少し」「すぐ終わる」「今日は予定が変わった」と言葉で説明します。しかし、子どもにとっては、その言葉が曖昧で、具体的に何を意味するのかわからないことがあります。そのため、大人は説明したつもりでも、子どもには見通しが伝わっていないことがあります。
予定表、写真、絵カード、タイマー、残り回数、終わりの箱などは、見通しを支える道具です。好きな活動を終える前に、終わりを見せる。次に何をするかを示す。予定が変わるなら、変わったことと代わりにすることを見えるようにする。こうした支援で、癇癪が減ることがあります。
これは、子どもをスケジュールで縛るためではありません。見通しを持つことで、不安を減らし、自分で切り替えやすくするためです。
感覚過敏が癇癪の背景にあることも多い
癇癪の背景には、感覚過敏が関係していることもあります。音、光、匂い、触覚、温度、服の感触、食べ物の食感、人混み、突然の接触などが、子どもにとって強い負担になることがあります。
大人には平気な刺激でも、子どもには耐えがたいことがあります。スーパーの音、園のざわめき、掃除機、ドライヤー、蛍光灯、給食の匂い、靴下の縫い目、服のタグ。こうした刺激が積み重なり、最後に小さなきっかけで大きく崩れることがあります。
この場合、癇癪を「我慢が足りない」と見ると、支援を誤ります。必要なのは、刺激を減らす、休憩できる場所を作る、イヤーマフを使う、苦手な服を避ける、事前に予告する、短時間から慣れるといった環境調整です。
感覚への配慮は甘やかしではありません。感覚的な負荷を下げることで、子どもが生活や学習に参加しやすくなります。
癇癪中に説得しようとしない
癇癪が起きている最中に、大人が長く説明したり、説得したり、反省させようとしたりしても、うまくいかないことが多いです。癇癪の最中は、子ども自身も強い混乱や興奮の中にいます。その状態で言葉をたくさん聞き、理解し、気持ちを切り替えるのは難しい場合があります。
癇癪中は、まず安全を確保します。自傷や他害、危険な場所への移動がないようにしながら、刺激を減らし、言葉を短くします。「大丈夫」「ここで休む」「終わり」「静かにする」など、短く具体的な言葉にします。大人が感情的に怒鳴ると、子どもの興奮はさらに高まりやすくなります。
落ち着いた後に、次回どうするかを考えます。「さっきはなぜ泣いたのか」を問い詰めるより、次は休憩カードを使う、予定表を見る、終わりを先に知らせる、苦手な音を避けるなど、具体的な支援へつなげます。
癇癪への対応は、癇癪中より癇癪前と癇癪後が重要です。
癇癪を減らすには代わりの行動を教える
癇癪が何らかの役割を持っている場合、その役割を果たす代わりの行動を教える必要があります。嫌なことから逃げるための癇癪なら、「休憩」を伝える方法を教えます。欲しいものを得るための癇癪なら、「ちょうだい」「もう一回」を伝える方法を教えます。助けが必要な場面での癇癪なら、「手伝って」を教えます。
ここで重要なのは、代わりの行動が癇癪より使いやすいことです。休憩カードを出しても休めないなら、子どもはカードを使わなくなります。「いや」と言っても無視されるなら、より強い行動で拒否するしかありません。
最初は、子どもが崩れる前に大人が手助けして構いません。「休憩?」とカードを見せる。「手伝ってだね」と言葉を添える。「もう一回?」と聞く。子どもが少しでも発信できたら、すぐに意味のある結果を返します。
癇癪を減らす支援は、子どもに我慢を教えるだけではありません。安全で伝わる方法を増やす支援です。
家庭では一つの癇癪場面から始める
家庭で癇癪に対応するとき、すべての癇癪を一度に減らそうとすると大変です。まずは、よく起きる一つの場面を選ぶとよいでしょう。動画を終えるとき、お風呂に入るとき、外出前、帰宅後、食事、寝る前などです。
その場面について、癇癪の前に何があるか、癇癪のあとに何が起きているかを見ます。予定が見えていないのか、苦手な感覚があるのか、要求や拒否が伝えられないのか、疲れているのかを考えます。
そして、支援を一つ入れます。予定表を見せる。終わりを予告する。選択肢を作る。休憩を教える。苦手な刺激を減らす。要求カードを用意する。支援を入れたあと、癇癪の強さや回数がどう変わるかを見ます。
親が全部を完璧に分析する必要はありません。まず一場面を見るだけでも、対応はかなり変わります。
全国どこからでも癇癪への療育的対応を学ぶ
自閉症児の癇癪は、単なるわがままではなく、伝えられなさ、見通しの不足、感覚負荷、不安、切り替えの難しさが背景にあることがあります。叱る前に、何が起きる条件になっているのか、子どもが何を伝えようとしているのかを見ることが重要です。
ユアーズでは、全国どこからでも参加できる形で、癇癪や問題行動への療育的対応を学べます。要求、拒否、休憩、手伝ってを伝える方法、予定表や視覚支援、感覚調整、家庭でできる予防的支援を、発達段階に合わせて整理しています。
ステージ1〜3はこちら
https://yoor.jp/door/autism_approach123
ステージ4〜6はこちら
https://yoor.jp/door/autism_approach456

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