自閉症児にアイコンタクトを教えるべきかー目を見ることより共有する力を育てるという考え方

自閉症児の療育で、アイコンタクトは昔からよく話題になります。名前を呼んでも目を見ない。話しかけても顔を見ない。要求するときに大人の手だけを引いて、顔を見ない。こうした様子を見ると、保護者や支援者は「目を見られるようにした方がよいのではないか」と考えます。

たしかに、人とのやり取りでは、相手を見ることが役立つ場面があります。相手が何を見ているか、どんな表情をしているか、話している対象は何かを知ることは、コミュニケーションに関係します。その意味で、視線や顔への注意は発達上重要です。

しかし、自閉症児にアイコンタクトを教えるときには注意が必要です。目を見ることだけを目標にしてしまうと、本人にとって負担になることがあります。また、目を合わせる行動が増えても、相手と意味を共有する力が育っていなければ、コミュニケーションとしては十分ではありません。

大切なのは、目を見る形そのものではなく、相手と情報や経験を共有できることです。自閉症療育では、アイコンタクトを強制するより、共同注意、要求、拒否、遊び、やり取りの中で、人に向かう力を育てることが重要です。

目を見ない理由は一つではない

自閉症児が目を見ない理由は、一つではありません。人に興味がないからと単純に考えるのは不十分です。

目を見ることが感覚的に負担になる子もいます。相手の目や表情は情報量が多く、見続けると緊張したり、疲れたりすることがあります。目を見ると、話の内容に集中できなくなる子もいます。顔を見ながら言葉を聞くより、少し視線を外した方が理解しやすい場合もあります。

また、相手の顔を見る必要性がまだわかっていない子もいます。欲しいものがあるときに、大人の手を引けば取ってもらえる。大人の顔を見なくても要求が通る。そのような経験が続くと、人に向かって発信する形が育ちにくいことがあります。

さらに、共同注意が育っていないために、対象と相手の間で視線を行き来させることが難しい子もいます。物は見ているが、その面白さを人と共有するために顔を見ることが少ないのです。

目を見ない行動だけを見て叱るのではなく、その背景を考える必要があります。

アイコンタクトと共同注意は同じではない

アイコンタクトは、相手の目を見ることです。共同注意は、子どもと大人が同じものに注意を向け、その対象を共有することです。この二つは関係していますが、同じではありません。

たとえば、子どもが大人の目を一瞬見たとしても、何を共有しているのかわからなければ、コミュニケーションとしては弱い場合があります。反対に、目を長く見なくても、大人が指さした先を見たり、子どもが面白いものを見つけて大人に見せたりするなら、共同注意は育っています。

自閉症療育で大切なのは、目を見る回数だけを増やすことではありません。子どもが何かを見つけたときに、大人と共有できるか。大人が何かを示したときに、その対象に注意を向けられるか。遊びの中で相手の反応に気づけるか。こうした力が重要です。

目を見ることは、共同注意の一部として自然に出てくる場合があります。しかし、目を見ることだけを切り離して練習すると、形だけの反応になりやすいことがあります。

強制的なアイコンタクトは負担になることがある

「目を見なさい」と何度も言う支援は、慎重に考える必要があります。子どもによっては、相手の目を見ることが強い負担になります。無理に目を見させることで、不安が高まったり、人との関わりを避けたりすることがあります。

また、目を見ることに集中しすぎると、話の内容が入らなくなる子もいます。大人は「目を見て聞いている」と安心するかもしれませんが、本人は目を見ることにエネルギーを使い、言葉の意味を処理できていないかもしれません。

療育では、外から見て望ましい形だけを求めるのではなく、本人にとってコミュニケーションがしやすい形を考える必要があります。顔を少し見る、相手の手元を見る、指さしの先を見る、同じ物を見る、声に反応する。これらも大切な社会的注意です。

アイコンタクトは、強制するより、楽しいやり取りの中で自然に出る方が望ましい場合が多いです。

要求場面で人に向かう力を育てる

アイコンタクトを考えるとき、最初に取り組みやすいのは要求場面です。子どもが欲しいものを取ってほしい、開けてほしい、もう一回してほしいという場面では、人に向かう理由がわかりやすいからです。

たとえば、子どもが棚の上のお菓子を取ろうとしているとします。大人はすぐに渡すのではなく、少しだけ待ちます。子どもが大人を見る、手を伸ばす、声を出す、カードを渡すなどの発信をしたら、「ちょうだいだね」と言って渡します。

ここで重要なのは、目を見ることだけを条件にしないことです。子どもが目を見ないと渡さない、目を見るまで待ち続けるという方法は、負担になることがあります。まずは、人に向かって発信したことを認めます。視線、手、声、カード、身振りなど、子どもが今使える手段を大切にします。

要求場面では、「人に伝えると結果が返る」という経験が育ちます。その中で、相手を見ることも少しずつ出やすくなります。

遊びの中で自然な視線を育てる

遊びは、自然なアイコンタクトや共同注意を育てる場面になります。特に、子どもが楽しいと感じる活動では、人を見るきっかけが生まれやすくなります。

シャボン玉、くすぐり、追いかけっこ、水遊び、ボール遊び、絵本、車遊びなどで、大人が少し止めると、子どもが「もう一回してほしい」と大人を見ることがあります。この視線は、自然なコミュニケーションの中で生まれます。

子どもが大人を見たら、すぐに楽しい結果を返します。「もう一回だね」と言ってシャボン玉を吹く。ボールを転がす。水を流す。こうすると、人を見ることが楽しいやり取りと結びつきます。

ただし、ここでも目を見ることを無理に要求しすぎないことが大切です。子どもが手を伸ばした、声を出した、体を近づけたという発信も受け止めます。その上で、自然に相手を見る経験を増やしていきます。

顔を見るより「同じものを見る」から始める

顔を見ることが苦手な子には、まず同じものを見る経験から始めることができます。子どもが見ているものに大人が入る。子どもが車を見ているなら、大人も車を見る。子どもが水を見ているなら、大人も水を見る。子どもが絵本の一部を見ているなら、その絵に言葉を添える。

同じものを見る経験が増えると、大人の声や反応が、その対象と結びつきやすくなります。子どもは、「この人は自分が見ているものに関わってくれる」と感じやすくなります。そこから、ちらっと大人を見る、反応を確認する、もう一回を求めるといった行動が生まれることがあります。

共同注意の支援では、子どもを大人の方へ向かせるだけでなく、大人が子どもの注意へ入ることが重要です。顔を見させるより、まず世界を共有する。その方が、子どもにとって自然な入口になります。

アイコンタクトを評価指標にしすぎない

療育の評価で、「目が合うようになったか」を重視しすぎると、支援の方向が狭くなります。目が合うことは一つの変化ですが、それだけでコミュニケーションが育ったとは言えません。

見るべきなのは、もっと広い変化です。要求が伝わりやすくなったか。拒否を表せるようになったか。大人と同じものを見る時間が増えたか。遊びの中で相手の反応に気づいたか。指さしの先を見られるか。自分が見つけたものを見せようとするか。困ったときに助けを求められるか。

目が合う回数だけでなく、相手と何を共有できるようになったかを見ることが大切です。

自閉症児の支援では、外から見た「それらしい社会性」より、実際に伝わるコミュニケーションを重視する必要があります。

全国どこからでも共同注意と視線の支援を学ぶ

自閉症児にアイコンタクトを教えるべきかという問いには、単純な答えはありません。目を見ることが役立つ場面はありますが、強制的に目を合わせることがよい療育とは限りません。大切なのは、目を見る形ではなく、相手と対象や経験を共有し、必要な意思を伝えられることです。

ユアーズでは、全国どこからでも参加できる形で、アイコンタクトを無理に強制しない自閉症療育を学べます。共同注意、要求、拒否、模倣、遊び、人への注意を、子どもの発達段階と負担に合わせて育てる方法を整理しています。

ステージ1〜3はこちら
https://yoor.jp/door/autism_approach123

ステージ4〜6はこちら
https://yoor.jp/door/autism_approach456

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